大役萬 / ミニドラマ&「大役萬」 解説


またやってもうた。
もう一撃で勝ちが見えてたのに。
凹むなぁー、実際。詰めが甘かったかぁ・・・。
え?「私のために戦ってくれないの?!」って言われてもさぁ、
お腹すいて力出ないんだもん。
違う!いや、大事だよ!君の事は大事さ!決まってるじゃん!
んわ、わかってるよ、そんなにすねないでよ。
大丈夫。こっから見ててよ。男の勝負のときを。
ここを絶対突破するから。エィヤッ!ほら、ね。
大きくなったでしょ僕。ほめてよ。うん。
ほめられるともっと大きくなるんだから。
触れられるともっとそうなるはず。

あ。。。

あれ?

なんでだろ・・・?

おかしいなぁ・・・。

朝は平気だったんだけどなぁ・・・。


ん。落ち着こう。
落ち着け落ち着けリラックスリラックス。
深呼吸して、と。

さぁ、もう一度。肩の力を抜いて。

今度は決めてヤる!




大役萬を目指して

  



「パイに牌を挟むっていうのはどうでしょうかね。こんな絵面で」



4月中旬の企画会議、野崎プロデューサーのこの臆面も無い(笑)ダジャレ的提案が
議場一同の爆笑を生み、実際にこうして仕上がったジャケットを見ると、感慨深くも、
携わってくださった皆さんの「拘りを越えた執念」を改めて感じます。

 タイトルを『大役萬』と決めてから、新曲9曲入れましょう、んじゃぁ5月1日までに
曲デモをすべて上げて来て下さいね、と野崎P。え?2週間で9曲・・・?
その怒涛の畳み掛けに、僕は果たし状を受けた素浪人の気分でした。

 戦隊モノ、ムード演歌、プログレ系、絵描き歌、刑事モノ、麻雀曲、
 バラード、エンディング曲、Hな曲!

 作曲家になりたての頃は、曲書きのスピードだけは業界内で定評を頂いていた僕の意地も、
従来のコンペとは訳が違う。自分が歌うための「決め打ち」発注なわけだから。
命からがら(オオゲサ)何とかデモを上げたその先にあったのは、怒涛のスタジオレコーディング。
その内訳たるや泡を食ってしまった。

 声優さんのショートストーリーの収録、生の弦とドラム収録と、これらを1日でやるという
少林寺三十六房さながらのスケジュールとな!あまつさえmanzo名義の楽曲でここまで
色々な人が協力してくださったのも初めて。
それだけにその一日で色々目まぐるしい事この上なし。




 シュンリー(木俊さん)がうっかり時間間違えて1時間遅刻(笑)から始まるものの、
岩田光央さんのハイテンションに一同大爆笑。しかも収録は一発OK。プロの匠に唸る。



うっかりもののシュンリー。だがイケメンだから許す!

山口理恵ちゃんの演技は、若手ながら妙齢の魔女の貫禄。実際も魔女的なところがある、
これからが楽しみな新進気鋭の声優さんだ。あな恐ろしや。




山口理恵ちゃん。君は大物になると思います。

 麻生祥一郎さんのドラムの収録は、サクサクと進む。流石。「グレープフルーツサマー」なんて、
「Mars Voltaみたいっすね」なんて言いながらすごく面倒臭い曲なのにサラッとこなしちゃうし。
「だるま落としのように」 「ひとり de Go!! Fun!! 炊飯ジャー」 ではストイックかつ暖かいプレイ。
幅広い。男前で寡黙。高倉健じゃないんだから。山口理恵ちゃんが収録終わってもずっとスタジオに
逗留していたのが、麻生さん目当てでいるのだと聞いて、少々ショックを受けるも納得する。
男の僕だって惚れちゃったもん。




麻生さんと。惚れたぜアニキ!

 そして初めての弦収録立会い。いつもの四谷サウンドバレイが違った景色に見えた。
アレンジャーの大橋恵さん。ゴージャスな弦アレンジと裏腹にキュートな方でした。譜面が手書き
だったのも感動。(結構最近は写譜屋さんが書いたものや、PCソフトで出力したものが多かったりする)

 そして名うての真鍋裕さん率いるストリングス奏者の皆さん。圧巻だったのは「まなびや」でのカルテットの
レコーディング。一拍ずつ揺れるクリックを仕込んで、それが禁じ手であることを知らぬまま現場に持って行き、
僕が野崎Pに怒られるも(汗) 4人の剣豪達、難なく本番テイク1で決めてしまい一堂唖然。このくだりは凄かった。
 そんなこんなで正午に開始されたレコーディングが終了したのは午前2時過ぎ。
 1日がまるで1ヶ月かの様だった。



 ボーカル録りは 6/14,15 の二日で敢行。野崎P、厳しかったなぁ〜(笑)でも、正直嬉しかった。というのは、
アーティストとしてやらせて頂いてから、がっぷり四つのボーカルディレクションを受けたのが実は初めてだった。
歌詞と絡めた部分での、歌の「流れ」の作り方からアーティキュレーション、強弱など、細部にわたって教えて頂いた。

「気持ちが強いからといって、強く歌えばいいってもんじゃないですよ」確かに。大声で大好きと言ったからって、
必ずしもあの子は振り向いてくれない。今までの僕の人生の縮図ではないか。15日も23時を回り「炊飯ジャー」の
歌のリテイクが終わったあたりで日が変わった。録音室からコントロールルームへ戻ると電気が消えていた。

 おや?停電?

 「萬ちゃん!お誕生日おめでとう!」
 人を驚かすのが大好きな野崎P。何とまぁバースデーケーキを用意してくれていたのだった。
 スタジオで誕生日を迎えられるという、音楽家冥利に尽きる、39歳の一日目がそこにあったのでした。



 レコーディングが終わり、香港でのジャケット撮影が待ち構えていた。
3泊4日の弾丸スケジュールだったけど、そこでカメラに収められたものは、
まさに「拘りを越えた執念」のスナップの嵐。mk@jeepstar氏の執念。

 現地のおっちゃん達が、路地裏で麻雀をジャラジャラするその様は、昔見た香港映画そのままの風味。
リアリティが凄まじい。まそりゃ当然なんだけど(笑)
僕の風貌のせいも大いにあると思うが、僕が香港に妙に解けていたのが自分で可笑しかったなぁ。

 雑多な街並み・喧騒・ネオン。
 それらが織り成す夜景。
 幼い頃に見た新宿そのものでした。

 現地の地下鉄や商店街、タクシー、遊覧船、ありとあらゆる場所で撮影はつつがなく。
ダブルデッカーの撮影中は、異国であることをいい事に、ここにはとっても書けないような
卑猥この上ない日本語を絶叫・連呼してきました。屋外であんなに猥語を連呼したのは小学生以来です。
編集もP自身がやっているという手作り感満載の超家内制手工業の代物。いい時代になったものです。


 大役萬を作りたい!という願望は、もはや僕の手にも負えないスピードになってきちゃいました。



「折角パイなことだし、肌触りもやはりリアリティを」
と、紙質にまで拘った野崎Pの執念がここに。触らせてもらって思わず爆笑。ホントだパイに似てる!
どうやったらあぁなるのかは不明。まさに「肉迫」してました。紙で肌触りって再現できるんですね。
ただただ感動。

 そして、僕が帰宅途中で柿島さんと大いに昔の彼女と「どこそこでこんなことをされた」みたいな
話をしていた模様を同乗していた野崎Pが知らぬ間に音声収録していた。政治家先生の密録の様だ。
ま、実話かどうかは、皆様のご明察に委ねることに致します。

 僕は音楽だけを細々こしらえてきた人間ですが、これほどまでにCD制作に細部に拘るスタッフ
各位を初めて見て、それぞれの持ち回りで「大役萬」を作ろう!と皆さんが思ってくださったのだ
と実感しました。そう、モノ創りの執念は、すなわちロマンなのです。

 たとえ今がどんなに辛くても、パイのまにまに命を懸ける。

 大役萬を目指して!




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